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革新の生命医学情報 No.7

特集・ガンと赤血球①

特集 ガンと赤血球 ~ガン問題の根底に横たわるもの~

6.血管と腫瘍の関係

 良性、悪性の別を問わず、腫瘍には著明な血管系の発達と赤血球の集中があることは誰でも認めている事実です。しかし実際にはこれがどういうことを示しているのか、正しく理解されていないのが現実です。

a.古典的な研究

1826年、オランダの解剖学者Kolkが、静脈側から色素を注入して腫瘍の血管系分布を調べようとしましたが失敗に終わりました。1863年、Virchowはガン腫に血管、血液が集中している事実をみて、これは血液の異常に基づくものだと唱えました。またRibbertは、ガン発生の前駆兆候として結合組織の変化が起きると考えていましたが、Wyssは、潜在的的ガン細胞は腫瘍中の血管の退行によって栄養補給が減少して、その環境に適応して活発な物質代謝能力が生じ、遂に他の細胞を消費して生き永らえる可能性を得るようになったものだと説いています。

これはおそらく、組織間隙(静脈洞)にある血管の退行後、その間隙を埋めた赤血球がガン細胞に移行している状況を見たのだろうと推測できます。

また、Goldmanは、①ガン腫内の血管はその配列が乱れ拡大し、或いは螺旋状になり、多数の分岐を出していること。②末期には腫瘍中心部の血管は退行し、数が少なくなる…と述べています。これは正しい観察だといえます。これらガン研究の初期にあった学者たちは、腫瘍の発育と血管の異常な発育とは関連があると考えていることは妥当だといえます。

b.その後の研究

その後の研究では、Ide、Urbrach等の研究があります。後者の研究を要約することにしましょう。彼の報告によると、

① ウサギの耳を透明窓で観察したところ、正常組織の移植片中に6-7日後、毛細血管が増殖形成された。

② 肉腫やガン腫の移植片では正常のもめより早く3日目から血管の形成が始まり、盛んに組織中へ侵入し、腫瘍組織の周辺にも旺盛に血管網を形成した。

③ 毛細管内皮細胞を誘導する能力が腫瘍組織にはあるようだ。

【註】 毛細管内皮細胞が組織中に侵入するのではなく、血圧によって組織間隙に流入した赤血球が内皮細胞に分化する状態を見ている。

④ メラノーマでは、ガンや肉腫ほど活発な血液の流入は見られない。

⑤ ヒトの腫瘍内の血管分布についてはX線や血管造影などの技術を使って調べたが、腫瘍内に無数の血管分布があることを確認した。

このように、腫瘍内には異常ともいえるような血管の拡張、増加があることを確認してはいますが、その血管内を流れる赤血球との関連にはまったく気づいていません。

c.腫瘍内の血流遅滞

前述したように腫瘍内部には著明な血管網の形成、また血管の拡張が起きるため、必然的に血流は緩やかになることは推測できます。

Urbrachの報告によりますと、色素やX線造影剤を血管内に注入すると、腫瘍内へは正常組織と比較して早く現れ、しかも長期間にわたって抑留されるといいます。また腫瘍の温度は周辺組織より若干高いが、腫瘍全体としては正常組織よりも低温であるともいっています。しかしこれは腫瘍の種類や生成の時期によって差異が出るはずですから、一概に共通の現象だと断定することは妥当ではありません。腫瘍内での血管の異常な発達と血流の遅滞とは、腫瘍中に移勤した赤血球が腫瘍細胞に分化するための条件であり、腫瘍への血流の集中と血球分化が腫瘍増大の最大要因であることが今もって気づかれていないことは重大な見落としです。

d.ガンその他の腫瘍の血管分布と酸素欠乏

ガン腫は酸素欠乏によって発生すると唱える学者は比較的多くいます。Urbrachはその一人で彼は「ガンの原因として遺伝性、ウイルス、その他いくつかの影響の重要性を認めないわけではないが、発ガンの主犯は明らかに酸素欠乏である」といっています。これは正しいことです。以前からガン細胞は酸素欠乏状態の下で解糖作用によって生活エネルギーを得るものだと考えられており、Haddowは「ガン細胞は正常細胞が到底生きられないような環境に生じ、かつ増殖することができる細胞だ」といっています。

Urbrachは次のような仮説を提示しています。「組織中の一細胞がある刺激(イオン化放射線、化学的発ガン物質、老齢、酸素欠乏、抗物質代謝性物質、ウイルス等)を受けると、遺伝的な変異、即ち異常な物質代謝能力を得るようになる。もしその変化した細胞が他の細胞よりも生存可能な場合、それは潜在的ガン細胞となり、その獲得し変化した物質代謝の能力に適した環境にあるときには、他の正常細胞の生存を妨げ、ガン細胞自体が増殖することができるわけである」といっています。その要結として「空気なし生命こそ、ガン問題解決の鍵である」としていますが、ガン巣内の酸素欠乏が発ガン原因ではなく、全身的に酸素欠乏状態であることがその要因の一つであるとするのが妥当でしよう。

タール塗布その他の局所的刺激による発ガンを見て、ややもすればガンを局所的なものと考えがちであり、ガン腫内の酸素欠乏という考えもそれからきています。しかし、事実としてガン組織には他の組織より遥かに多量の血液補給が行われているのですから、酸素欠乏はガン腫のほうではなく血液にあると考えるべきです。

e.放射線の皮膚血管に与える影響

X線の照射を長期間皮膚に受けると皮膚ガンを起こすことはよく知られています。この放射線照射と血管との関係について数人の研究があります。そのうち、Borakの研究では、X線の照射量によって皮膚に3段階の紅斑を生じると報告しています。

第1段階……毛細管に対する影響によって起き、細小静脈や毛細管の収縮によって血流が緩やかになるため皮膚の照射部が帯青色となる。

第2段階……細小動脈の収縮が弛緩し反動的な充血によって赤色となる。

第3段階……主として小静脈の血流が妨げられる結果、皮膚は紫藍色になり、ときによってはチアノーゼを呈する。

Terochの報告では、放射線によるガン発生は臨床的な経験から、比較的弱い放射線を長期間照射したときに起きやすく、また内臓ガンを治療するために強い放射線をしばしば使用すると、稀ではありますが皮膚に発ガンするといっています。

これらの報告のように、放射線は血流を遅滞又は停止させ、血管の拡張をもたらすことがわかります。このことは当然に腫瘍形成の一要因に違いありません。

7.ガン発生原因とされる諸説とその批判

a.ガン研究の歴史

ガンの研究は1775年、Pottが煙突掃除人夫の職業ガンが、煙突のススと関係があることを発表したのが最初の研究発表だとされています。その後二百年以上をかけて、様々な発ガン物質があることもわかってきました。
 19世紀の中頃から、ガン研究の方法として組織学的研究が進められ、20世紀の始め約30年間はガンの遺伝、発ガン性ウイルスの存在有無、化学的発ガン物質の発見、腫瘍の物理代謝に対する生化学の応用などがなされてきました。また最近になってからは、環境、地理的影響、地質的影響、人種、人種的習慣などが、ガン問題追求のための重要な道だと考える人たちもいるようです。
 これらも大局的にはガン問題解明の一つの大切な方向に違いありません。

b.結合組織と上皮細胞の失調説

これは百年以上も前に唱えられた大変古典的な説ですが、今でも一部の学者たちによって支持されています。

この説は“正常な組織では結合組織と上皮細胞との釣り合いがとれているのに、ガン組織ではその調和が失われ、結合組織が早く老化進行して上皮細胞を支持、固定する力を失うために上皮細胞は制限を解かれ胎生的な性質を取り戻し、無制限に細胞増殖を起こしてガン腫を形成する。老化のもっとも明瞭な兆候は顔面や手の皮膚で、弾力性の消失とシワの増加である”というものです。

この説では次のような疑問に答えることができません。

① なぜ、ある部位だけの結合組織だけが早く老化することになるのか?

② 結合組織にガン腫発生を防止する作用がありうるのか?

③ 皮膚の老化とガン発生との間にどんな関係があるのか?

最近、組織培養によって結合組織が活発に増殖し、また腫瘍を形成するように増殖するといって、この説を支持する学者もいます。

組織培養における細胞増殖は、自然環境における増殖状態を示すものではありませんから、この賛成説の根拠は意味のないものといわざるをえません。

c.刺激説

この説は病理学の創始者といわれるVirchowが19世紀中頃に唱えた学説で、今日においても多くの支持者がいます。発生原因として正しいものといえます。

その代表的な臨床例は皮膚ガンでしょう。様々な刺激にさらされている皮膚は、もっとも感受性の強い部分です。物理的、化学的刺激によってガン腫に進行することは、ガンが慢性的な一種の炎症であることを示唆しています。

強い紫外線にさらされる漁業関係者や農業従事者の顔や腕に日やけに起因する皮膚の慢性炎症が腫瘍に進行する場合や、また火傷もガンの原因になります。

インドのカシミール地方は寒冷の地で、木炭カイロを衣服の下に入れて生活しているこの地方の人たちに、低温火傷による皮膚ガンが多発していることはよく知られているとです。その他、長い陶製のキセルでタバコを吸う人たちの下唇に発生する口唇ガン、ビンロウジュの実を噛む習慣があるインド、アフリカに口腔ガンが発生するのも、物理的、化学的な刺激が長期にわたって皮膚に与えられるためです。

【写真】口唇ガン。76歳男性の下唇に生じたガン。

d.ガンは慢性の炎症である

刺激説では、一定の刺激によって発ガンすることは認めていますが、ガンが慢性炎症であるとは世界の誰一人としていっていません。

多くの病理学者はガンと炎症とは根本的に別のものとして考えています。しかし、ガン腫には血液が集中していることは周知の事実で、血液の集中は刺激への反応であることは疑いのないことです。ガン組織は慢性の炎症状態にあるわけです。

学者や医師は外因が除去されれば炎症は治癒するが、ガンは治らないから炎症ではないと考えているようですが、これは当を得た考えとはいえません。確かに急性炎症は刺激原の除去によって治癒します。しかし慢性炎症となると容易には治り難いものです。その理由は簡単です。刺激原を容易に除去することができないから慢性炎症になるわけです。慢性炎症の刺激原が外部にあるのではなく、内部にあることが除去を容易ならざるものにしているわけです。

内的な種々の刺激原に反応し、防衛する任をもつ赤血球が該当箇所に集中し、炎症部細胞即ち、ガン腫の細胞に次々と分化するわけです。

ガンは慢性炎症です。このため急性炎症のような兆候は極めて現れ難く、炎症を起こしている状態がわからないだけです。他の慢性炎症と同様に、危機的な状態にまで進行して初めて兆候が出ることになります。

e.体細胞突然変異説

正常な体細胞が染色体、遺伝子等の突然変異によって、ガン細胞に変化するという説です。 Boveriによって唱えられた説で、その後多くの学者たちによって支持されています。現在においても多数の学者がこの説に傾倒していますが、これはまったく想像的な観念論であると断言することができます。

“突然変異”という語は、一つの生成過程について全く理由づけができないものを、もっともらしく形づくる“言葉の魔術”にほかなりません。体細胞が突然変異誘発物質によってガン細胞化し、猛烈な細胞分裂によって腫瘍を形成する・・・このようなお伽話しにもならないこじつけ論を信じる人が今もっていることに嘆かわしさを禁じ得ません。この説は現代のモルガニズムと細胞学を基盤にし、細胞分裂説を前提とした前世紀的な誤った説ということができます。

f.多段階的ガン発生説

“ガン発生の過程は非連続的で、幾つかの異なる特性をもつ段階を経て発生する。即ち始めある種の発ガン物質によってガン形成が始まり、その後に別の種類の発ガン物質によってガン形成は完了する”という説でごく少数の学者が支持しています。

Berenblumはマウスの皮膚に発ガン性で知られるベンツピレンを作用させ、次にはハズ油を塗布してガンを発生させました。

この同じ年にRousはウサギの耳にタール、ビレーンを作用させて腫瘍を形成させましたが、彼の発ガン説は2段階説であり、初期と促進期の二つに分けています。この実験による腫瘍はタール塗布を中止すると消失し、再塗布すると再び腫瘍が現れます。また再塗布の場合、非発ガン物質のクロロフォルムを塗布しても以前と同様の場所に、再度腫瘍が発生することも確認しました。発ガン後の段階において、発ガン性のないものを塗布するという刺激でも、腫瘍が形成されるということは、過敏反応に起因する一種の刺激説ということができます。

g.酸素供給障害説

Warburgが唱えた説で“悪性腫瘍は組織中の炭水化物代謝の異常によって起きるものでガン細胞は次の2相によって正常体細胞から生ずる。その第1の相は細胞の呼吸作用の不可逆的障害である。その結果の第2の相はガン形成の相であり、これは呼吸障害を受けた細胞が、長い間生存のための闘争の結果、エネルギー欠乏によって細胞の一部がダメになり細胞の他の部分が、不可逆的に失った呼吸エネルギーを発酵エネルギーで置き替えることに成功するようになる。発酵エネルギーは形態学的に下位にあるため、高度に分化した体細胞はこのために未分化細胞(無制限に成長する)、即ちガン細胞に変化する”と主張しています。

たしかに、ガン細胞は無酸素状態に対する抵抗力が強いことは広く認められていることです。このことから、ガンと精神状態とは密接な関連がありますが、今でもこのことを軽視する傾向は強く残っています。悩みや怒りなどによる交感神経系の失調が長期間続けば呼吸は浅くなり、このため循環酸素量が減少して結果として赤血球中の酸化ヘモグロビン量も減少することが推測されます。この酸素供給説は誤説ではありませんが、彼のいうような酸素欠乏状態は局所的ではなく、全身的にあることを見落としています。

また酸素欠乏の要因は精神状態と密接な関連があることも忘れてはなりません。

 ガン発生の要因とされる幾つかの代表的な説を挙げてみましたが、どれも血液、その主成分である赤血球とガン細胞の関連に触れた説は一つとしてありません。殆どが、ガンの直接要因は外部にあると考えています。
 また、ガンは単一に近い要因で発生するように考えられていますが、ガンは幾つもの要因が複雑に絡みあって発生するもので、一つや二つの要因らしきものを除去しても、ガン発生を免れることは困難といえます。もちろん除去しないよりは格段の対策になることはいうまでもありません。
 なお、発ガン性物質とされる多くのものについては、ご承知の方々が沢山おられることと思います。これも一つの誘導体ではあるものの、直接に発生要因となるものは極端な連続した摂取、接触がない限り恐怖を覚える必要はないと考え、ここで説明することは省略します。ただ、極力摂取しないように努めることは必要です。

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