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革新の生命医学情報 No.13

各種器官の構造及び組織発生と血球分化①

 ここでは唾液腺、肝、膵、脾、肺、腎、乳腺との関連についてお話ししましょう。生殖巣等については別の機会にします。

【1】唾液腺と血球分化

 消化液を分泌する消化管付属の腺は口腔、肝、膵などにあります。これらのうち、口腔に分泌物を出す唾液腺は昆虫類では非常に発達していますが、下等脊椎動物(魚類)ではあまりはっきりした唾液腺はみられません。両棲類では耳下腺、顎下腺、舌下腺などがあって主として粘液性の唾液を分泌しています。爬虫類や鳥類にも三種の唾液腺が確認されていますが食餌の種類による関連から、あまり著明といえるような発達はしていません。
 これらの生物と比較して、哺乳類では多くの腺が発達しています。一般に唾液腺というものは神経支配を受ける程度が強いという傾向があります。哺乳類の耳下腺は漿液性であり、顎下腺はウサギ、ネズミでは純漿液、イヌやネコでは純粘液性になっていて食事のとき以外でも分泌しています。
 舌下腺は漿液、粘液の混合腺でこれも絶えず分泌する腺です。ヒトの場合では唾液の一日分泌量は1500ccといわれています。唾液中の細胞要素は唾液小体と呼ばれていますが、白血球の一種である好中球です。唾液中には幾種かのホルモンを含むという説もあります。
 爬虫類の毒蛇には唾液腺が変化した毒腺がありますが、この毒液にはホルモン的な成分が含まれているかもしれません。鳥類では前述したように唾液腺は一般的に発育していません。
 漿液腺と粘液腺からの混合腺から成るのは顎下腺と舌下腺ですが、両種の腺液分泌の割合は、動物の種類によって著しい差異があります。舌をもっているアリクイは昆虫などを捕食するときに役立てるため、顎下腺から分泌する粘液を貯めておく嚢までもっています。ウシやウマのような有蹄類は食べ物を湿らせて飲み込みやすくするために漿液性の唾液を分泌します。
 耳下腺は顎下腺よりも4倍の大きさで、菜食性齧歯類もまた同様の傾向があります。
 遺伝学では昆虫(ドロソフィラ)の唾液腺の染色体が非常に大きいことから、この染色体にある個々の横縞を遺伝子と想定し、それと各形質とを対応させて『染色体地図』なるものまで画いて染色体遺伝学の基本としています。しかし、唾液を分泌したあと、その腺細胞は結局は崩壊死滅する運命にあるばかりでなく、千島喜久男医博が提唱しているように唾液腺細胞も赤血球の分化によって形成されるものですから、メンデル・モルガンの遺伝学に傾倒する学者が、染色体の細胞遺伝に固執するのは妥当なこととはいえません。このことは、生殖細胞と体細胞とは相互に独立していると主張しているモルガンの原理と明確に対立しています。千島喜久男医博は研究結果から、唾液腺は赤血球から分化して生じた腺上皮から成り、その崩壊成分と血液中の液状成分とによって唾液腺細胞が形成されることを確認しています。遺伝と染色体の関連を重視することは少々問題があり、遺伝の主役は赤血球だとする千島喜久男医博の主張が世界に認められるときは必ず来ることでしょう。

【2】肝臓の組織発生と血球分化

 すべての脊椎動物がもつ肝臓はヒトの場合、内臓中の最大器官で、成人では1400グラム前後の重さがあり、体重の3%程度を占めています。ご承知のように肝臓が分泌する胆汁は脂肪の分解消化に役立ち、また造血物質をも含んでいます。さらに肝臓は血液中の有害物や異物の抑留をするほかに、糖質をグリコーゲンとして貯蔵するなどといった重要な作用を担っています。
 無脊椎動物や原索動物(ナメクジウオ)などにも肝臓といわれる器官はありますが、脊椎動物の肝臓ほど発育していないとされています。脊椎動物だけに本来の作用をもつ肝臓があるわけです。
 魚類、両棲類、爬虫類などの肝臓も鳥類、哺乳類などのそれと原則的に色彩、形状、構造、作用などが共通的です。ただ両棲類や爬虫類の肝臓には色素細胞が顕著にみられることは注目されます。
 胚小葉も鳥類、哺乳類には明瞭にみられ、肝静脈洞壁にあるクッパー氏細胞もすべての脊椎動物にみるこことができます。これについて千島喜久男医博は、主に赤血球(一部は白血球)が肝細胞索の隙間へ一時的に定着し少し分化したもので、後には肝細胞に変わる若い細胞だといっています。
 また胚子の肝は造血器官であるとする説が今でも広く支持されています。これは多分ハモンドの研究報告を深く考慮することなく容認したためでしょう。
 ハモンドはネズミの受精13日目の胚子を実験材料として観察した結果、血管内皮細胞→間葉性細胞→赤血球母細胞→赤血球へ分化すると発表しました。しかし、たとえ胚子時代であるといっても、既に赤血球が形成されていることは事実ですし、受精13日目頃にはそれが肝へ流入してくる時期でもありますから、ハモンドが見た状態は赤血球になる過程ではなく、赤血球から血管内皮細胞に分化している状態を見誤ったものといえます。

(a) 肝臓の働き

現在の医学常識として次のような作用があるといわれています。

① 胆汁を分泌し、脂肪を細かな脂肪球に変化させる。

② 血液の貯蔵。

③ 糖分やタンパク質をグリコーゲンに変え肝細胞中に貯蔵する。

④ ヒトにおいては胎生時代に、下等動物では生涯に亘って赤血球の生成を行う。

⑤ 脾臓その他で破壊された赤血球や老化赤血球及び異物、毒物などの抑留、分解を行う。

などといった作用があると一般的に考えられていますが、これを千島学説の第1原理・『赤血球分化説』を基盤にして総合的に考察してみましょう。

①…正しい作用ですが分泌の方法について既成学説には疑問があると千島喜久男博士は主張しています。肝細胞は赤血球から分化したものだということは前述したことですが、胆汁中に含まれている胆汁色素(胆赤素と胆緑素)の由来は今も解明されていない点があります。色素の原材料は赤血球中のヘモグロビンであることは疑いないことです。肝細胞もクッパー細胞もすべて赤血球から分化したものですから胆汁色素の由来はヘモグロビンだとするのが妥当なことと考えられます。

②③…これらの作用については正しい説です。

④…これには大きな誤りがあるといえます。胎生時代から生後の生涯に亘って正常体の肝臓は赤血球を母胎として成長と肝細胞の補充が行われ、飢餓状態においては千島学説の第2原理『血球と組織の可逆的分化説』が示すように今度は、赤血球に逆分化します。現代の医学、生物学はこの事実に対し否定や無視をつづけています。

⑤…肝臓は老廃赤血球を破壊する場所だと現代医学では定義づけしていますが、これはその過程を考察することなくその現象だけを捉えた結果だといえます。千島喜久男医博は赤血球の変化過程を観察中、肝臓では赤血球がいったん溶解状の血球(血球モネラ)まで解体し、それから肝の各種細胞を新生する事実を確認していますが、その状態だけを見た当初の観察者は赤血球が破壊されているものだと誤認したに違いありません。赤血球と肝細胞との栄養状態による可逆的分化の説を裏付ける事実として、飢餓により肝臓の重量が著しく減少することが挙げられます。

また、季節的に栄養摂取が難しい時期、あるいは餌の多い時期であっても妊娠中の魚類その他の動物において、肝臓に顕著な萎縮が見られることは、よく知られています。夏季においてヒキガエルでは肝臓の有機物含有量が著しく増加しますが脂肪分やグリコーゲン、水分は減少します。

ロベッティの報告によりますと、肝細胞の大きさは12月~1月は主として脂肪によって、3月~6月はグリコーゲンに依存しているが、肝細胞が最小になるときは10月~11月の性的危機にあるといいます。

(b) 肝の組織発生

① 両棲類……オタマジャクシでは孵化当日の腹部は、卵黄球で充満し各種内臓の基盤はほとんど形成されていません。孵化後4日~5日経つと消化管の原基がほぼ完成しますが、腸壁にはまだ卵黄球から腸粘膜上皮細胞を新生する途中の過程にあります。ちょうどこの頃、腸になるべき部分の下方に空所が生じ、そこに肝臓の原基が形成され始めます。最初、肝を形成する卵黄球の塊のなかに多数の間葉細胞が千島喜久男医博がいう卵黄球のAFD現象(集合・融合・発展の過程)によって造られ、続いて肝細胞索が形成されます。この際、肝は心臓に近づき太い血管と接続しています。肝細胞索の隙間は始めは広くなっていてそこに赤血球が流入します。

この場合、内皮細胞に覆われていない肝細胞索の表面に赤血球が多数密着し、それはリンパ球状になる過程を経て細胞質を増して、また核は明るく大きく成長し肝細胞へ移行する状態を千島喜久男医博は確認しています。従来の学者は、このような状態を観察してハモンドのように胚子の肝を造血器官だと、その過程を総合的に考察せず誤認してしまったのでしょう。肝細胞はいわれるような細胞分裂による増殖は通常では皆無といっていいほどありません。稀に見られる分裂像も必ず細胞の2分裂によるという証拠もありません。ですから、胚子の肝の成長は赤血球の定着、分化による肝細胞への移行によるもので、胚子の肝が造血機能をもつなどということは、事実を逆方向に捉えた結果であり妥当なものではありません。

② 鳥類の胚子……千島喜久男博士は、鳥類の胚子でもオタマジャクシのようにはっきりと卵黄球塊から肝の原基が形成されることを観察していませんが、腸壁の一部と血管を母体とする肝の原基が形成されてからは、肝は正常に血管を中心として成長する事実は観察しています。

肝細胞索の隙間を充たす赤血球は両棲類と全く同じように赤血球→リンパ球→内皮細胞→肝細胞という分化移行の過程を通常的に見ることができます。

③ 哺乳類……哺乳類の肝臓も腸の一部が隆起することによって形成され始めます。最初は腸の内腔と肝原基の内腔が連続していますが、このことは発生学上認められていることです。千島喜久男医博はネズミの胚子によって肝形成の初期を観察していますが、原則的にはニワトリと同じように、胚子の肝における造血は見られませんでした。しかし、赤血球から肝細胞への分化過程は生後におけると同様明瞭に見ることができます。

マキシモウは初生児の小さな肝が体で一番大きな器官になる機構について、まったく理解できないと率直に述べています。このことは赤血球の広い分化能を認めない限り解明できない問題です。

(c) 肝の細胞核の大きさに係る諸説

ヤコブは正常な肝細胞核の容積には1:2:4などのような倍加的な段階があるが、これは染色体の大きさが倍加的に大きくなるためだと述べています。クララもこの説に賛同していますがパウルはこれに反対して染色体の大きさではなく、数が増えるためだと主張しました。また肝細胞の染色体の存在についても諸説があり意見の一致はないようです。有糸分裂の結果だというもの、また2個の静止核が融合した結果だというものなどがあり、なかなかまとまりそうにありません。

この問題を千島学説から考察すると、肝細胞は正常な栄養状態にあるときには、赤血球の融合と分化によって生じますが、種々の不自然あるいは人為的処理、また疾病やその他の事情による飢餓状態になったときには、肝細胞から赤血球に逆戻りするものだという事実を理解できたとき、容易に説明できることです。これまでの研究者はこの事実を知らず正常状態と飢餓あるいは栄養不良状態とを混同し、しかもウイルヒョウの細胞分裂万能説に調子を合わせているのですから、妥当な見解を得ることができないのは当然といえるでしょう。

(d) 2核または多核の肝細胞の起源と運命

哺乳類の肝細胞には2核または多核のものが多いことは広く知られていることで多くの研究者の関心をひいてきました。ヤコブは前述したように肝細胞の容積は倍数的段階によるといい、2核または多核の肝細胞は細胞質は分裂せず核だけが分裂する直接分裂、ときには間接分裂によって増加したために生じたものと考えました。マンセルやモームたちもそう考えました。

これに反してホールやベーカー、キングたちは間接分裂によってのみ生ずると主張し、パウルは小さな核の融合によるものと見ています。そこでウイルソンはネズミを材料とした実験で次のように結論づけをしました。すなわち、2核の肝細胞は1核の細胞が核だけ有糸分裂で分かれた結果だが、大きな多核肝細胞は融合によって生じたものに違いなく、もし分裂によって生じたものなら、幾つもの両極紡錘糸が見られなければならないが、実際にはそれが見られなかったと報告しています。

千島喜久男医博は、ウイルソンのこの報告は一部については正しいものだといっていますが、2核のものは単核のものが有糸分裂によって生じたものだという見解には反対しています。

ウイルソンはこの種々の核の成因を単純化するために次のような仮説を示しています。すなわち、『肝細胞は生後間もなく核の有糸分裂が次第に低下遅延し、ついには細胞質の分裂が停止し2核細胞を生ずる。第2段階では紡錘糸の形成が行われない。最後には核膜は破壊されることなく染色体が形成されて2倍になる』という仮説です。このウイルソンの説も、赤血球から分化中で肝細胞になりかかった液胞中に幾つもの核が新生し始めている状態を細胞分裂と誤認したのでしょう。

パウルやビゼーは、2核肝細胞は生理的状態の変化によって融合したり、分離したりするものだと報告しています。これは千島学説・第2原理にあるように栄養不良の状態にあるときには、1個の肝細胞中に2~3個の核が現れ、さらにそれが2~数個の血球母細胞に分化し、次いで赤血球となって血流中に入ったときの過程を見たのでしょう。

尾持、永田、百瀬氏らはラッテの肝細胞の2核細胞と核分裂の日リズムとの関係を調べて次ぎのように発表しています。

『肝細胞においては核の無糸分裂が圧倒的に多い。有糸分裂は30個体、数万個の細胞中にただ1個しか確認することができなかった。無糸分裂の過程をくびれ期、中間期、離断期に分けると、くびれ期と中間期は午前8時に、離断期は午後の8時に多く、2核細胞は午前8時から午後4時までの間に多くなる。また全肝細胞の2割にあたる肝細胞は夜から朝にかけて2回減少し、その時期に単核細胞が増加する。この2核細胞の減少原因は大部分が2核の再融合によるものと考えられる。核分裂の時間的変動の要因は明らかではない』と報告しています。尾持教授たちのこのデータや考察に対し、千島喜久男医博は『肝細胞は血球(主として赤血球、一部は白血球)の融合によって新生するものであり分裂像というのは融合から分化途上の過程を見誤ったものである』として批判しています。

しかし、尾持教授らが肝細胞に有糸分裂は皆無といえるほど見られないことを率直に認めていることは真摯な観察だと感服するほかありません。

ただ、いわゆる『無糸分裂』というものを必ず細胞分裂の結果だと当然のこととして決めていますがこれは正しくないと思われます。千島喜久男氏は嘗て解剖学会において尾持教授と個人的に会ったとき、『細胞は分裂によって増殖するものではない』ということを話したそうですが、その後に発表された尾持教授のどの論文にも、まったく触れられていないと残念がっていました。

尾持教授たちのこの2核肝細胞に関する研究と考察は、白上謙一氏がカエルの卵分割の際に見られる多核細胞の起因を無糸分裂による増殖と考えているのとよく似ています。

2核又は多核肝細胞も細胞分裂によって生じるのではなく、赤血球からの細胞新生の一過程として見られる現象であり、また多核細胞が減少するのは核の融合によるものが大部分だとする尾持教授の見解は妥当だといえます。肝臓では2核或いは多核の細胞の核だけが融合したり、細胞全体が崩壊することは十分に考えられます。これは多量の胆汁生産が肝細胞の成熟とその崩壊が強く関連していると主張する千島学説の見解からすれば当然といえるでしょう。多核肝細胞は分裂による結果としての細胞増殖ではなく、赤血球の集合体から肝細胞へ分化している途中の過程で、その血球集合体のなかに2~3個の核を新生している状態にすぎず、この多核細胞は終局的には核の融合や細胞自体の崩壊によって肝生産物質に変わるという運命にあります。

肝細胞の発生とその運命について千島学説・第1原理では次のように説明しています。

① 1個の核が無糸分裂によって2個になり、細胞体の分裂によって2個の娘細胞になるといった過程は正常状態ではまったく示していない。『核が無糸分裂で2個に分かれる過程だ』として示されている尾持教授らが作成した図は切片標本によるものであり、しかも既成学説に合致させるように故意に配列し直したと推測される。実際には分裂とは反対に融合過程にあるものを無糸分裂としてしまったことを一部認容しているようであり、またその状態と細胞本体の分裂に至った結果の関連がまったく説明されていない。そこに矛盾がある。

② 肝細胞に3個の核があることは稀なことであるがその存在を尾持教授らは認めている。これは無糸分裂説では十分な説明はできないが、血球集合体から核を新生する場合なら始めに2個或いはそれ以上の核原基が生じて、それらが後には融合するのだという第1原理なら容易に説明できる。

実際に1個の血球中でも分裂することなく2個以上の核が新生する事実を確認している。

③ 2核肝細胞が夜間に2回の極大値を示すという『分裂の日リズム』の起きる原因については尾持教授らは明らかではないといっている。これは赤血球塊から肝細胞へ分化する過程と、肝臓における赤血球の定着と肝細胞への分化が主として夜間の睡眠中に行われるだろうという2点に関連づけて考える必要がある。要するに、尾持氏らがいう『核分裂』という語は、今後『いわゆる核分裂様の像』と改められるべきであろう。

(e) 2種の肝細胞の百分率

肝細胞に2個或いはそれ以上の核を持つものが多いことは前述しましたが、肝細胞の大きさには差異が多く、ラッテでは経が12~25ミクロンもあるので薄い切片標本では1個の肝細胞が切断されてしまうことが多くあります。このため実際の多核肝細胞より切片標本ではその存在割合が少なく計算される可能性が高くなりその結果による報告が多いようです。すなわち、6~8ミクロンの切片では往々にして多核肝細胞が切断されて1個の核のように見えてしまいます。

ウサギの肝臓では5ミクロンと7ミクロンの切片標本ではパウルの報告によると各々が実際の2分の1から3分の1になります。この関連の研究は多くの研究者が大きさについての報告をしていますが3核細胞の存在については誰も確認していないようです。また2核肝細胞の意義についても触れていません。これは千島学説・第1原理の「赤血球分化説」による赤血球塊からの肝細胞分化を理解することによって容易に説明できることです。

(f) 肝細胞の化学物質による異常な細胞分裂像

成体における肝細胞は正常な状態では殆ど細胞分裂像を示さないことは周知の事実ですが、特殊な化学物質の影響によって異常ともいえる分裂を始めることもよく知られています。その化学物質とは生体染色色素(トリパン青)、細菌毒素、コルヒチン、チオユレア、トリパフラビンといった薬剤類や煮沸した卵黄、肝組織などです。これらを注射することによって細胞分裂を始めるわけです。

ウイルソンやレダックも成長したマウスに四塩化炭素の皮下注射によって人為的に肝細胞の異常な細胞分裂像を起こすことができたといっています。また彼らはマウスの肝臓において2核又はそれ以上の多核細胞を確認し、その肝の切片標本を造ってその観察時に現れた異常核分裂の相を図や写真にとっています。そのなかには、染色体は見えませんが紡錘糸らしきものが見えて、直接分裂と間接分裂との中間のような状態を示している像や、2~3核の多核細胞の存在像もあります。

しかし、これらの像は千島学説でいうように、分裂によって生じたと見るより幾つかの核が細胞質中に新生したと考えるほうが妥当だと思われます。

多核細胞の由来をラドフォードは細胞質の粘度が高いために染色体が離れられないためだと考えていますが、これは単なる想像説にほかなりません。ウイルソンやレダックは肝細胞核の融合型の存在を示していますが、融合後に再び分かれるというパウルの説を引用しています。何れにしても特殊な化学物質の影響によって哺乳類の肝細胞に多核の細胞が現れることは事実のようですが、これは化学物質によってその刺激で肝に血液が集中し血球塊が生じ、核を多くもつ病的な細胞の新生像を分裂像と誤認したものでしょう。

紡錘糸状構造は観察する細胞を固定剤で処理する際に固定細胞を中心として、放射状を呈する人工産物を生じる可能性があります。ラミネーらはチオ尿素やその他の物質、すなわち葡萄状球菌、色素のトリパフラビン、同じくトリパンブルー、各種組織の分泌液などを互いに化学反応を起こさないようにして注射しても、肝細胞にいわゆる分裂像なるものを示させ得ることから、これらの有毒物質が肝細胞を崩壊させる現象だと判断しています。これは正しい判断だと思います。

化学物質による肝細胞の異常分裂像は多くの研究者が確認していますが、このような有毒物質を注射することによって肝細胞の核にどんな変化が現れようとも、それは正常な肝細胞の増殖には関係しないことです。この観察結果というものは多分、有毒物質によって肝炎を起こし、その兆候の一つとしての集中血液のなかに異常な血球塊が生じ、そこに病的な核新生が起きた現象を異常な多核細胞の発生とか、細胞分裂として既成説を基にして捉えているだけといえるでしょう。

(g) 肝の血管系と血球から肝細胞への分化

哺乳動物においては肝細胞索の間隙を流れる血液は毛細管又は静脈洞内にあって必ず一層の内皮細胞で被われていると既成学説では定義されています。たしかに、肝細胞索の諸所に扁平な、いわゆる内皮細胞が付着していることは間違いありませんが、鳥類以下の有核赤血球をもつ動物では、この内皮細胞といわれるものは赤血球が扁平化したものにすぎません。その証拠にこの扁平なものを2千倍に拡大して詳細に観察しても、間隙というものはまったくなく膜で隔てられていることもなく赤血球が肝の血管壁に付着し、それが内皮細胞へ移行している過程が常に見られることです。

肝細胞索の間の血流が生理的に停止すると血球索が形成され、それまであった肝細胞索が崩壊して胆汁成分に変化した後には、この血球索が第2次的に肝細胞索に分化してそれを補充します。

鳥類以下の有核赤血球動物では1個の有核赤血球から1個の肝細胞に分化しますが、哺乳類の無核赤血球は数個の赤血球が集合し、AFD現象によって1個の肝細胞に分化します。赤血球が非常に小さいヤギではさらに多い10個以上の血球塊から1個の内皮細胞又はクッペル氏細胞を経て肝細胞へ分化します。

① クッペル氏細胞……毛細管の研究で有名なクロウは、肝の毛細管とクッペル氏細胞について次のようにいっています。

『肝の毛細管は多数の核を含んだシンシチウム性の内皮細胞から成り、胚子のそれと同様にはっきりとした細胞の境界線は見られない。星状をしたクッペル氏細胞がその好例である。もう一つの特性は肝細胞の内部にある細管であり、この細管は直接に毛細管の内腔と連続している。クッペルによれば、肝の毛細管にはランゲル氏細胞は見られないが、外膜細胞の層は存在する。つまり、クッペル氏細胞は内皮細胞の一種であるが、細菌その他の異物を補喰する作用があるとして古来有名になっている』。これに対し千島喜久男はクッペル氏細胞は赤血球(一部白血球)が肝細胞索の凹所に定着し、哺乳類では数個の赤血球が集合、融合して細胞核を新生して生じたもの、また肝の毛細管が内皮細胞で被われているというのは、クロウの想像にすぎず、赤血球が肝細胞索に密着していることは明白な事実であるとしてクロウの報告を批判しています。

② 肝の静・動脈の吻合……両棲類の肝の動脈は静脈へ直接に分岐して吻合しています。哺乳類の肝も同様なことがいえるとブラスは主張しています。これに反対するエリスがいますが、技術的な困難を伴うためにこれまで肝の動静脈吻合の正否は明らかではありません。

③ 肝静脈内の赤血球貪食細胞存在説……非常に興味深い研究がキースによって報告されています。この研究はやや古典的であるためなのか、日本では未だ紹介されることなく放置されていますのでここで少し詳しく紹介しましょう。

彼はニワトリやハトを材料として肝臓や脾臓を観察しています。また鉄分が青色に染色される薬剤を使用して鉄を含む細胞を肝と脾臓について調べました。

肝ではこの鉄を含む細胞は他の肝細胞と比べ形も大きさも違っていました。そしてこの細胞は常に肝の静脈と密接な関連をもち、ときには静脈の内腔を占めていることがあるといっています。キースが画いた図を見た千島喜久男は、この状態はまさしく赤血球が静脈内で血流の生理的停止によって肝細胞へ分化する移行過程に違いないといっています。しかし、キースはこの種の細胞はクッペル氏細胞と等しいものだと考え、赤血球を捕喰しているから、これを赤血球貪喰細胞と名付けました。

『核は2~3個の核仁を含むが扁平なものは定型的な内皮細胞核に似ており、突起をもつ細胞では核は胞状で不規則なピラミッド形を示し、2核のものもあるが普通は単核である。この細胞の著明な特性として、細胞質中の空胞には流血中から摂取した赤血球が含まれていることである。この赤血球貪喰細胞は肝に広く一般的に認められ、類似細胞の3分の1を占め、摂取したばかりの赤血球を1個又はそれ以上含んでいる』と報告しています。

今から百年近くも前にキースは鳥類の肝臓にはクッペル氏細胞に似た細胞がその細胞質中に赤血球を含んでいることを確認していたのです。ところが今日においてさえ組織学者や細胞学者の誰もこれに注意を払わず、紹介さえしていないのはどうしてなのでしょうか。この状態は肝細胞の検索をするとき誰でも確認できることなのです。この事実をもっと掘り下げて研究していたなら、今の組織学や細胞学に多分根本的な変革がもたらされていたことでしょう。もちろん、千島喜久男もキースと同様の状態を観察していますがクッペル氏細胞が赤血球を貪喰しているなどという観方はしていません。

キースは続けて『鳥類の赤血球は有核で比較的大きいから、それが実際に赤血球であることがよく分かり、また細胞内でのその運命もよく追求できる。赤血球貪喰細胞には決まった形はなく、その貪食の過程と共に絶えず形が変化する。貪喰した細胞を消化すると扁平となって静脈洞の内皮細胞に移行する状態がよく見られる』と報告しています。今の研究者のなかに静脈洞内の赤血球を含んだクッペル氏細胞が内皮細胞に変わると考えられる人はまずいないと思います。キースの報告は部分的には正しい観察をしています。ただ、『赤血球を貪喰した細胞』というのではなく、千島学説でいうように『赤血球…一部白血球…が静脈洞に定着し白血球を経て、また相互に融合しあって生じたクッペル氏細胞』と訂正するなら真実の姿を表現するものになります。

なお彼は『赤血球貪喰細胞内の赤血球は、静脈中の赤血球と同様に不規則な形で並び、且つ赤血球の定型的な染色性を示す。赤血球貪喰細胞の形成初期にはその細胞質は鉄反応を示さないが、次の段階には鉄反応剤に淡く反応する。この時期においては赤血球は正常に見えるが、次の段階では赤血球が消化されて、退行する頃になると貪喰細胞の細胞質は常に鉄の反応を示すようになる。赤血球が貪喰細胞内で崩壊する第1段階は赤血球溶解によってヘモグロビンが細胞質の空胞中へ排出され、赤血球核と細胞質の基質が残るが、後にはこれらは染色性を失い、遂にはまったく見えなくなる。貪喰細胞中に出たヘモグロビンは始めは鉄の反応を示すが、貪喰作用の終わり頃になると鉄反応は著しく弱くなる。貪喰細胞は赤血球をすっかり消化してしまうと静脈壁の内皮細胞に変わるがこのときでも細胞質は僅かではあるが鉄反応を示す。要するに肝の静脈内の赤血球貪喰細胞は赤血球を捕喰しそれを同化して遂には静脈壁の内皮細胞に変化する』といっています。

このキースの観察報告は優れた発見でした。この観察で彼が『赤血球貪喰細胞』といっているのは赤血球の融合と分化によって、また血管内を流れる赤血球や白血球が融合した様子、或いは1個の赤血球が白血球に分化途上にあるものを見たものに違いなく、彼のいうような消化ではなく赤血球の分化と細胞新生と見るのが妥当でしょう。それにしてもキースは現代の研究者たちすら気づいていないこと、すなわち、肝静脈のなかに赤血球を細胞質中に含む細胞があって、それが静脈内皮細胞に変わっていくことを正しく捉えていたことは実に素晴らしいことです。この内皮細胞やクッペル氏細胞は後には肝細胞に分化することも千島学説・第1原理で説明しています。

さらにキースは肝臓や脾臓のなかにある赤血球貪喰細胞について研究した結果、赤血球の生理的崩壊と貪喰細胞との関係について興味深い考察をしています。彼は『貪喰細胞に捕食され消化された赤血球中のヘモグロビンは肝の胆汁中にも、肝や脾臓の何れの組織中にも見出せない。このことはヘモグロビンが血液中に逃れ出て造血組織中へ送られていることを暗示するものである。なお胆汁色素とヘモグロビンとは化学的に密接な関連があること、特に胆汁中のピリルビンは鉄分のないヘモグロビンと殆ど等しいものと考えられるから、流血中に入ったヘモグロビンが胆汁色素形成に大きな役割を演じているものと思われる。自分は鳥類の赤血球貪喰細胞内に胆汁色素の存在を証明することはできないが、貪喰細胞に捕食された赤血球のヘモグロビンが胆汁色素形成に関与していると考える』ともいっています。

残念なことに彼は、肝の静脈壁の内皮細胞はやがて肝細胞に分化し、さらに今度はそれが退行して胆汁になることを知らなかったために、貪喰細胞と称する細胞中のヘモグロビンが血流に入り、後には胆汁形成の場所へ集中するものと考えたのでしょう。

彼はまた『肝や脾臓の静脈内皮細胞には赤血球貪喰作用があり、それは健康体では常に、しかも極めて多数に認められることから、この現象が一般の血管にも見られるかどうかを調べたところ、大きな静脈では見られなかった。しかし、そのような性質は一般の血管内皮に全くないわけではない』

といい又、『赤血球貪喰細胞は常に固定組織細胞の一種であるという証拠は認められない。大きな静脈内では見られないが毛細管では見ることができる。だからメチニコフがいうような貪喰細胞は血流によって運ばれて肝に到達した白血球だという説とは一致しない』といっています。

このキースの報告に対し千島喜久男はメチニコフが説くような現象が例外的にあることは否定できないが、生理的にそして大部分の場合はキースが主張するように貪喰細胞なるものは毛細血管又は静脈洞のような血流が緩やか或いは停止するかのような場所で形成されるものであり、しかもそれは、赤血球を母体として生じるものだといっています。

キースはそして『赤血球貪喰細胞が正常な肝や脾臓内に多数見られるのは鳥類に限ったものであるか否かを調べた結果、カエル、ヒキガエル、カメ、クロコダイル、オポッサムなどの肝にも認められるだけでなく、赤血球が細胞質内で消化される過程を哺乳類においても発見した。だから鳥類において見たこの現象は広く多くの動物の血管内皮細胞にも適用される。そして赤血球がこれらの各種動物の血管内皮細胞で生理的に崩壊し鉄を遊離するものと考える』と報告を結んでいます。

キースがこのような結論だけで観察を終えたことは内容からして実に残念なことです。当時において〈赤血球は肝や脾臓だけではなくすべての体組織において、静脈洞或いは細胞の隙間に運ばれてその組織の電気的誘導作用によって各々の固定組織細胞に分化する〉ということが解っていない時代ですし、その理論を説明できる学者もいなかったのですから仕方ないことです。

(h) 生きた肝のクッペル氏細胞と貪喰作用

ニズリーはカエルの生きた肝を特殊装置の下で観察し、その結果を次のように報告しています。

『肝の静脈洞に入った異物はすべてクッペル氏細胞によって捕喰されるとは限らない。血管内に注入した色素の粒子は血漿中のタンパク質でその表面を包まれる。クッペル氏細胞が異物を捕喰するのは偽足を出すのではなく、余りに急激に行われるので捕喰の現状を見ることはできないが、おそらく表面張力作用によるものだろう。なお多量のヘパリンを注入すると異物の表面にタンパク質性の被膜はつくられない。そのため静脈内を流れていっても捕喰されないしまた正常な赤血球も捕喰されない。肝のクッペル氏細胞の貪喰作用は従来考えられていたように血流が緩やか又は停止しなければ行われないのではなく、少なくともこの実験では血流が速くても行われる』と報告しています。

しかし、クッペル氏細胞は静脈洞内の凹所部分に赤血球や白血球が定着し、そして融合の結果生じるものですから、その表層を血液が流れていることがあるかもしれませんが、原則的にはそこは血液の流れが緩やかだったはずです。また既に出来上がっているクッペル氏細胞は赤血球や異物を貪喰しないといっていますが、そのことでこの細胞が赤血球、一部白血球の融合によって生じたものであるという千島学説による主張を否定できる理由にはならないでしょう。

(i) 貧血と肝その他の鉄色素

溶血性貧血の際に肝臓や腎臓その他の組織の血管内皮に、赤血球の溶解による鉄色素の沈着が見られることはよく知られています。人間の貧血においても赤血球の溶解によってすべての肝小葉に鉄色素の沈着が見られるほか、心筋、膵臓、副腎、腹部リンパ節、皮膚などにもそれが認められます。

これについてハウエルやワットは貧血症患者の治療として、度々輸血を行うための過剰な鉄の貯蔵によるものではく、むしろ、血液の酸素欠乏によるものだろうといっています。

従来、正常体でも貧血の場合でも肝臓に鉄色素や鉄分が多いことは周知のことです。このことからも、肝細胞は鉄色素、鉄分を多く含む赤血球から分化したものであるという千島学説の第1原理・赤血球分化説が正しいものであるということを裏付けています。

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