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革新の生命医学情報 No.10

第1原理「赤血球分化説」⑤

赤血球の運命と赤血球貪食細胞

(a) 血液及び赤血球の量

血液、とくに赤血球は動物の発生、成長に際して細胞増殖の主要因であるという千島喜久男博士の説に支持を与える一つの事実は、血液の有形成分の大部分は赤血球であること、また赤血球が血液の液状成分に対する容積比が非常に大きいことです。体重1kg当たりの血液容積(cc)は、アルトマンの報告によりますと次のようになっています。

ヒト男64~97、ヒト女63~97.5、サル75,1、ウシ57、ウマ72、イヌ92.6、ヤギ70、ヒツジ58、ブタ65、ウサギ70、ニワトリ95.5などとなっています。体重が60Kgの人なら、血液の容積は大体4.2リットルになります。そのなかで赤血球の容積は血液全体の約35%ですから、概算しますと約1.5リットルになります。しかもこの赤血球は毎日1/10~1/12ずつ新たに形成されるといわれています。それは体の何処かで破壊されるための補充だと考えられています。しかし、実際は破壊されて消失するのではなく、全身の組織細胞へ常時変化しているためです。血液中の赤血球容積が大きいのは、ガス代謝のためだけではなく、体細胞の母体であるためです。

(b) 赤血球の破壊と貪食作用

従来、老化した赤血球は体の一定部位で破壊されるものと考えられています。しかし、その場所や様相については諸説があって一致していないのが現状です。ルースは赤血球はヘモグロビンを失うことなく細かく壊れて、血管内皮細胞に摂取されると唱えました。

ドーンやセービンも、赤血球は細分されて崩壊すると唱えており、ウサギの血液を湿潤標本で観察した結果では、赤血球はまず細長い突起を出して、いわゆる変形赤血球になる。この突起は、始め緩やかに動いているが次第に早く振動するようになり、遂には赤血球から分離して桿状又は球状になる。1個の赤血球からときに2つ以上の突起が同時に生ずることもあるといっています。

また同じ項でこの変形赤血球は赤血球崩壊の前段階であり、突起が分離して遂には小赤血球になるものと解さられると述べています。

貧血や血球溶解の場合、脾臓が腫大し、そこで赤血球が崩壊しているという説は、現代病理学者の一般的見解です。しかし、千島学説からの考えはそうではありません。その崩壊しているかのような像は、赤血球が融合して周辺の組織細胞へ分化している過程なのです。

本編は革新の医学理論といわれる千島学説の解説編です。そしてこの項は、その第1原理・赤血球分化説のお話です。「赤血球はあらゆる体細胞や生殖細胞に分化する」という理論が中心になっています。このことは既成学説、即ち「赤血球は一定期間、体内を循環したあと、体の何処かで崩壊し去る」という定説と根本的に対立します。

この点についてまず従来の諸説をいま少し紹介しながら、既成学説に批判を加えたいと思います。殊に興味深いのは、前世紀終わりから今世紀初めにかけて、現在よりはるかに真実に近いものを観ていた人が多いことです。たとえば、病的状態では、赤血球は血管内皮細胞によって貪食されるという説は、今も広く信じられており、生理的状態においても同様なことが行われているということは、1898年頃ラウツによって認められていました。

その後、ハウエルが「脾臓内のある種の大型細胞は赤血球、又はその破片を含んでいる。それらの細胞は肝臓の静脈洞中にある貪食細胞の一種、クッパー細胞と同様に、赤血球を実際に捕食する証拠であると考えられている」といって以来、血管内皮細胞の赤血球貪食説はだんだん忘れられるようになりました。

ピーターは、各種動物の胚子時代の細胞崩壊について広く研究していますが、そのなかで赤血球は3-4週間で25億個も崩壊するといっています。崩壊ではなく、赤血球が固定組織細胞に分化していることなど、彼のまったく知らないことです。しかし彼は、軟骨細胞は崩壊して軟骨基質となり、また眼盃やレンズを形成する際も、細胞崩壊を起こすといっています。これもまた、赤血球の分化過程をみているようです。

カールは、グリーマンが多くの腺管の形成は、その部の細胞崩壊が主要な役割を演じていると主張したのに対しそれを否定しましたが、千島喜久男博士は、胚子の細精管や中腎その他において、中心部の細胞が崩壊して管腔ができることを1951年発表しています。

ストックホルム大学の生化学教室、ロックナーはウサギの赤血球に放射性鉄でラベルして、他のウサギに輸血し一定時間後に、その各種器官中の放射性鉄誘導体を調べ、それが存在する所で赤血球が破壊されたものと判断して、次のように報告しています。

『注入した赤血球と結合した放射性鉄は、赤色骨髄(74%)、肝臓(8.4%)、肺(7.9%)、小腸(4.0%)、腎(3.7%)、脾臓(2.0%)であった。この結果から、赤色骨髄が赤血球崩壊の最も重要な部分であり、人間においても原理的にこれと同様のことがいえるのではないか』といっています。

同様のことを、ミッチェルやマンが報告しています。これらの報告は、骨髄諸要素が赤血球の分化によるものだという、千島喜久男博士の実験的研究結果とも一部似た点もありますが、赤血球全部の運命を示してはいません。「赤血球は体のすべての細胞に分化する」・・・これが赤血球の運命なのです。

(c) 赤血球の運命と赤血球貪食細胞

1.赤血球の捕食

これまで、老化赤血球は流血中から骨髄、脾、肝、その他、体のあちこちで貪食細胞(マクロファージ)によって捕食され、その一生を終えるものとされてきました。ポンダーは血管内で崩壊するといい、ドーンは貧血症の場合には特に多量の赤血球が骨髄で捕食されていると主張しました。また、ポンダーやブラウンは、正常なら黄色骨髄で充満している長骨の骨髄が、貧血のときには赤色骨髄に変わるのは、骨髄で赤血球が捕食されるからだといっています。

しかし、この考えは大変な間違いだといわざるをえません。これは栄養状態の悪化から、骨髄脂肪が赤血球に逆戻りしている(第2原理・血球と組織の可逆的分化説)状態を見誤っているのです。ローズは、白血病では骨髄での赤血球生産が増し、一方では赤血球の破壊も増すから、白血病と貧血は関係があるといっています。白血病に貧血症状がでるのは確かで、ローズがいっていることは当然のことです。骨髄での造血が盛んだなどということは、骨髄脂肪その他から血球への逆分化を知らないからです。

キャッスルは、前述したような諸説に反対して、動物や人間が生きている間は赤血球が貪食されるようなことはなく、死後に起きる一種のアーチファクト(人工的産物)だといっています。この説も、一部は真理を含んでいるようですが、赤血球が貪食されているような像は、死後などではなく、常時動物や人間において見ることができます。しかし、それは捕食されているのではなく、赤血球と細胞との可逆的な分化関係を示しているのです。

2.いわゆる赤血球貪食細胞の意義

従来、細胞質中に赤血球を含んでいる細胞を「赤血球貪食細胞」と呼び、一種のマクロファージだとされています。この貪食細胞は、老化赤血球を捕食して消化、同化する作用をなすものだと考えられています。その一方で、赤血球を捕食した貪食細胞の運命については、キースが「それは静脈の内皮細胞に変わる」といっているだけで、今の組織学者のほとんどが、この貪食細胞のその後の運命について、まったく触れていません。

これまでの、固定的な細胞観念に傾倒している人たちには、疑問にならないことかも知れませんが、動的な細胞観念をもつ人にとっては、決して見過ごすことのできない重要な問題です。殊に千島喜久男博士のように、赤血球は極めて広い分化能をもつ細胞前段階のものだと主張する者にとっては、貪食細胞の運命と、赤血球の生理的崩壊についての既成諸学説は、徹底的に究明しなければならない問題なのです。

千島喜久男博士の研究の結果から発見された結論を先にいいますと、赤血球貪食細胞なるもは、血球を捕食する細胞などではなく、赤血球の融合と分化によって生じたもので、体細胞に分化途上の中間移行型のものです。

クラークやレックスは、ウサギの耳に透明窓を作り、生きたリンパ管内の貪食細胞と赤血球との行動を顕微鏡で観察しています。それによりますと、「1月26日、リンパ管中へ付近の静脈から白血球と貪食細胞が侵入してきた。1月31日には白血球、赤血球、その他の細胞がそこに現れ、2月2日にはそのリンパ管の一端に、血球を貪食した貪食細胞が相当数出現し、大部分の血球は貪食細胞細胞内にあり、遊離しているものは僅かになっていた」と報告しています。

また、「同一貪食細胞を続けて2日間観察した結果、前日、貪食細胞の周囲にあった赤血球が、翌日にはほとんど全部が貪食細胞内に入っていた」といっています。クラークたちは貪食細胞に赤血球のほとんどが捕食されてしまったと報告していますが、これは事実を全く逆に見ています。貪食細胞が赤血球を捕食するのではなく、赤血球が融合しあって貪食細胞という、前細胞段階のものを新生しているのです。また、リンパ管内に静脈から侵入したという白血球も、多分その大部分は、侵入してきたのではなく、周辺の赤血球の分化によって新生したと考えるほうが自然です。

3.マクロファージの特性、起源、機能

▼マクロファージの特性

マクロファージ又は大喰細胞の一般的な特性に関する組織学者たちの見解を、マキシモウやブルームたちの主張に従って総合しますと、凡ての組織中にあって、コロイド状液中にある異物を摂取する細胞を指し、結合組織中にあるものは、マクロフアージまたは破壊細胞、休止遊走細胞などと呼ばれ、リンパ節や骨髄組織中にあるものは網状細胞、肝の静脈洞、脳下垂体や副腎の静脈洞内面を被うものをクッペル細胞、血管や毛細管の外側にあるものは外膜細胞といっています。

また、肺の組織中にあって塵芥を含んでいるものを塵芥細胞などと、様々な名称で呼ばれています。もっとも、喰作用をもつ細胞でも、好中性多型核白血球は小喰細胞と呼ばれ、大型の組織球や単球性のものがマクロフアージと呼ばれていることもあります。

▼マクロファージの起源と分化能

マクロファージは線維母細胞が、その先端で直接分裂して生ずるものだとするモランドの説があります。一般的にこの細胞は、組織球又は単球の一種とされ、細網内皮系細胞が特定の異物刺激を受けると、それぞれの組織(脾・リンパ節・骨髄・肝・副腎・下垂体前葉などの静脈洞内皮系細胞)から遊離して生ずるものだとされています。しかし、この考えは血管内皮から血球が形成されるという既成学説を基礎としたものです。

千島学説をもとにして考えますと、これは分化の方向を事実と逆に見ています。栄養不足など病的な場合には逆分化によってそのような状態が現れることもありますが、正常時には血球から内皮細胞に分化するのです。

マキシモウたちは、マクロフアージは間葉性細胞から生じ、貪喰性多型核細胞、巨大細胞、線維芽細胞に移行すると主張しています。しかし、よく考えてみるとマクロフアージ自体が、一種の異常型であるといえます。即ち、色素その他の異物類などを静注したときに現れるもので、これは異物と赤血球とが融合して生じた異常な細胞だと考えるほうが適切だと思います。この点でクラークたちは、マクロファージは一種の人工産物であり、刺激によって退行し生じたものだと主張しています。これは千島学説と一部の共通点があります。

▼マクロファージの作用

メチニコフは炎症を起こしたとき、この細胞が生理的防御作用をするといいました。今日においても、小喰細胞は主として細菌を食い、大喰細胞は(マクロファージ)はコロイド、各種色素、炭末、脂肪、タンパク質、細胞の破片、白血球、赤血球などを捕食して体の防御、組織の清掃をしていると考えられています。

4.要約

以上で古来から現在に至るまでに説かれた赤血球の運命のなかで、貪喰細胞による赤血球の捕食について、幾つかの血液学者の提唱した説に批評を加えて紹介しました。ところで上述したような学者たちが、赤血球を捕食したかのように見たいわゆる赤血球貪喰細胞の存在を主張することに対し、これに異議を唱えるわけではありませんが、この現象に関する学者たちの解釈に対しては異議を唱えざるを得ません。

赤血球は血球の大部分を占めており、その運命については正確な研究と、慎重な解釈がされなければなりません。しかし赤血球の真の行動について、現実は余りにも知られていないために、これまで紹介したような不合理と矛盾に満ちた諸説が氾濫しています。そして誰もそれらの説に疑問を感じる人も殆どいないようです。

これまで、赤血球を貪喰する細胞の起源が明らかにされていないため、赤血球を含んだ細胞があれば、それはその細胞に赤血球が食われたのだと、想像したものに過ぎないのです。クロレラ集団から淡水海綿細胞が新生されるのを見て、クロレラは細胞内の共生者だと判断するのと似ています。

赤血球の集団から肝細胞が形成される状況は、ヤギの肝臓を注意深く検索すれば容易に確認することができます。他方、栄養不良や飢餓状態のときに、肝細胞や骨髄巨大細胞が多数の赤血球又は赤血球母細胞に逆分化する場合にも、いわゆる赤血球貪喰細胞と等しい形態が現れます。栄養状態が良好なときには、赤血球の集合と融合によって、巨大な赤血球貪喰細胞のような形態を経て固定組織細胞に分化します。肝や脳、脊髄の神経節細胞でこのような過程を見ることができます。

これまで、貧血の場合に、骨髄その他で赤血球が赤血球貪喰細胞に捕食されるために貧血が起きると説明されてきました。この説には多くの矛盾が含まれていますが、強い貧血や白血病の場合は、肝や脾に赤血球が集中し融合しあって肝や脾の組織細胞に分化するため、これらの器官が著しく肥大することがあります。この場合、赤血球塊から肝や脾の細胞を新生する一定段階では、かの赤血球貪喰細胞の形態を経ることがあります。しかし、それは決して赤血球を食う細胞としてではなく、せいぜい白血球との融合がある程度です。

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